神の留守〜飴細工の川2

薄暗いベッドルームにも
花は満ち溢れていた

大きなダブルのベッドの上に
敷き詰められた花は布地を隠し
甘い花の香りが暖かな空調の流れと共に押し寄せてきた

椅子に腰掛けていた男は
組んだ足先をユラユラと揺らし
「どうだ？
ここまでした男はいないだろ？」
と聞いてきた

壁の花を指先で撫で
ゆっくりと進むテミンは
「いや、いたよ」
あっさり否定した
「前の男は床にも花を敷き詰めた」

「床に？
しかし、それじゃ歩けないだろう？
おっと、それ以上は近づくな
まず、一息いれよう」

男が顎先で示す先には
ワインボトルとグラスが用意されていた

テミンはボトルを開け
立ったままグラスに注いだ

グラスを一つ持つと男が指先を上げ
テミンに遠ざかるよう指示した

「用心深いね」

「まあね、 ベクの件を踏まえるのは当然だ」

壁際に下がったテミンと入れ替わりに
男はサイドテーブルに近寄りグラスを
手に取った

「結ばれた契約に」
グラスを掲げ、ワインを喉に流し込む男を見てテミンは話しかけた

「毒ってさ」

壁際の花を背に
テミンは白い滑らかな肌
整った顔立ちを無表情のまま
静かに男を見据えていた

「どんな味かな」

男はテミンを凝視し口元を
指先で拭った

唇を歪めテミンはワインを
飲み干した

ドンッという地響きと振動が体に伝わる

オニュは慌てずテミンの腕を取り
部屋の奥へ導く

重たい木の机を動かし
分厚い絨毯を捲る

切れ込みに鉄杭を差し込み
床の一部を持ち上げた

隠し部屋だった

振り返るオニュが
『見てごらん』にっこりとテミンを
手招きした

テミンは隠し部屋を覗き込む

途端、背を押され地下の暗い部屋へ
転がり落ちた

『大丈夫か？』

『ヒョン』

見上げる先に
四角い空間があり
眩しい光を背にするオニュの笑顔があった

オニュに手を伸ばすが
階段も梯子もなく手助けなしには
出る事は出来なかった

『テミン、お別れだ
騒ぎが静まったら出ておいで

お前なら出てこれる
落ち着いてよく考えろ』

『僕が闘う！』

『テミン、花筏綺麗だったなあ
覚えてるか？』

『僕も、い』

『生きろ、テミン』

『いやだ！！！』

『テミン、また会えるよ』

眩しい光の中に
優しい笑顔があるのを見上げ
全身で叫んだ

『いやだ！！！』

その叫びはオニュが降ろした
重たい床に遮られ
外に聞こえる事は無かった