eggonewのブログ

SHINeeオニュ的な

メビウス 3 欲しいもの

 

 

 

 

 

 

女は話しながら思い出していた

 

 

湿った闇の中でトマトの香りのする
キスをされてからも
ジンギは現れた

 


夜の闇の中で唇を押し付けてきた事など
全くおくびにも出さずに
いつもメンチカツを買って行った


どんな人なんだろうとぼんやり想像したが
全くわからなかった
店主も知らないようであった


ある時、酔った客が1万円札を渡したのに
釣りが違うと騒いだ事があった
お札はもらっていないと説明しても
男は聞く耳を持たずショーケースを蹴りつけてきた

店主夫婦と身を寄せ合っていたら
暴れていた男が
突然、前のめりに倒れ込んできた


店の灯りと闇の境に
ジンギが立っていた
いつもの黒いスーツ姿で
ズボンのポケットに両手を入れたまま
男の背中を蹴りつけたのだ


酔客はいきりたち
何やら喚きながらジンギに向き直ったが
ポケットから
手を出さずに立ち尽くす
ジンギから発散される戦闘能力は
酔客のそれをはるかに超えていた

 

酔客はもごもごと呟きながら
暗闇へ消えて行き
ジンギも何も言わずに
こちらを見て立ち去った


それからしばらくジンギが姿を見せなくなった時期があった
年が変わり正月休み明けの
弁当屋にジンギが現れたが
いつもと違っていたのは
明るい昼間に来た事と
女を連れていた事だった


明るい陽射しの中にいるはずなのに
横顔を晒すジンギからは夜の寒さが
一層感じられた

 

無表情なジンギにもたれかかり
腕を絡めた女は美しく
全神経を使って気にしていないふりを保ち接客した

ジンギはいつものメンチカツではなく
コロッケを求めた
思わずジンギを見ると
ジンギの突き刺すような目がそこにあり
何も言えずに俯いた

 

あの人は何なんだろう
どうしてこんなに気になるんだろう

ぼんやりと考えたが全てに
現実味がなく深く考えるのはやめた


その日
店が終わり寒さに震え
アパートに帰る道すがら
カチカチと明滅する街灯の下に
男が蹲っていた

 

「……ジンギ…さん…?」

呼びかけると
男は白い息を吐き顔を上げた

「…あんたか
今日はメンチカツ買えなかったな」

「…!どうしたんですか、その顔」

「……別に。早く帰んな」

まぶたが赤黒く腫れ
口元が切れて血が出ていた


「怪我してます」

「どーも、知ってるよ
さっさと行けよ」

「血が出てます」

女は近寄るとカバンからティッシュを取り出しジンギに渡そうとした

ジンギが受け取らないので
女は近寄り流れている血をティッシュで拭った

迷惑そうに顔を背けるジンギの手にティッシュを掴ませ
立ち上がろうとした瞬間
両手首を強く掴まれ抗う女を軽々と引き寄せた


「…あんた見てるとさ
……我慢出来なくなる」

近々と寄ったジンギの視線が女の唇を見つめ
キスをされた

引き寄せる腕の握力は痛い位なのに
ゆっくりと女の味を確かめるようなキスだった


「名前、教えてよ」

「……ナツ…です」

「暑そーな名前」

そう言うとまた唇を重ねてきた

先ほどとは違う
ジンギの欲望が灯ったキスで
ナツはジンギからの血の味を感じ
自分にその欲望が感染していくのを感じていた