eggonewのブログ

SHINeeオニュ的な

天泣 3

 

 

 

 

 

 


ハニが完成した豪奢な建物に
住んだのは三ヶ月にも満たなかった

父の経営する会社の業績が悪化し
一家の暮らしは激変した


会社の規模を縮小し
立て直しに全力を注いでいた父は
労働者との軋轢や借金を抱え
いつも疲弊していた


大学卒業後、家事手伝いとして
両親に守られ生きていたハニも
働く道を選んだ

 

元々庶民の生まれであるハニは
働く事を厭わなかった


母や弟のイルソンは
富と名誉の
誇りから抜け出せず
家族が言い争う声が時々聞こえてきた


ハニは一家が新しく暮らす
町のケーキ屋で働き始めた

朝から晩まで働けば
家族の支えになる収入となり
それが嬉しかった

仕事が終わり
バス停へと向かうハニは
疲れていたが店から貰った
可愛いケーキがその手にはあり
家族に早くあげようと知らず笑顔に
なっていた


角を曲がればバス通りに出る


交通カードを出そうと
俯いた途端
腕を強く掴まれ路地に引き摺り込まれた


叫び声を出す間も無く
脇腹を殴られ膝に硬い地面を感じる


ケーキの箱は地面に落ち
踏みつけられた


ハニは這いずりながら
逃げようともがいたが

後ろ髪を掴まれ
地面に叩きつけられた

 

 

誰か!

 


しかし、声にはならず
ヒュゥッという空気音が
喉元からせり上がる


ジーンズのボタンを引きちぎられた時
馬乗りになっている男が
突然横ざまに倒れ込んだ


混乱したハニがもがきながら
起き上がると
乱闘が始まっていた


襲って来たと思われる男が
隙を見て逃げ出し
ハニを助けた男が追いかけたが
諦めてすぐに戻ってきた

 

立ち上がれないハニに
距離を保ち「大丈夫、ですか?」
と男が問いかけてきた

 


返事も出来ず震えるハニに
「警察を呼びますから」
携帯を取り出した男に
「あの……大丈夫、です」

 


ハニは立ち上がろうともがいた

 

しかし、叩きつけられた時
腰を強打したのか、腰が抜けたのか
なかなか立ち上がれない

 

 

「お手伝いします
怖がらないで

僕はあなたを襲わない」

 


「あの……あの、大丈夫です」

 


拒絶するハニに
「早く明るい大通りに出た方がいい

大丈夫 
僕はあなたの味方です」

 


腕を取られハニは歩きだした

 


ケーキ…
ケーキは?


ひどく眠たい時のように
思考が纏まらずハニは
男の腕を借り歩いた


暗い路地から抜け出し
灯りの落ちる車道へ出た時に
横にいる男の香水が鼻をかすめた

 

香りの記憶を辿っている間に
タクシー乗り場へと
近づいており


男が着ていた自分のシャツを
破れたジーンズの上から
腰に巻いてくれたのも
断るだけの思考が出来ず


ハニを車に乗せようと手を出した男の拳が
擦り切れて血が滲んでいるのが
見えたが何も出来ず

言われるままにタクシーに
乗り込んだ


動き出す車窓から見上げた男の眉に
奇妙な亀裂があるのを見て
ハニは振り返った

 

腰に巻かれたシャツから
ほんのりと香る香水

 

 

 

風景と香りの記憶が結ばれた

 

 

 


住宅展示場で会った男はポツリと佇み
タクシーを見送っていた