eggonewのブログ

SHINeeオニュ的な

メビウス2 依頼

 

 

 

 

 

 


女は部屋に入ると目を瞠った

客のその反応が大好きなキーは
満足した

「…すごい」

キーは女をソファに座らせ
自分は正面のデスクに腰掛けた

ソファに座った客の目線から
自分を優位に保つため
デスクチェアの高さまで調整し
何度も検証を重ね、計算し尽くされた
位置になっていた


部屋の壁際にはたくさんの水槽が置かれ
様々な魚が優雅に泳いでいた

ただ魚を入れているだけではなく
カラーやコントラスト
景観に気を配った非常に細やかな神経を感じる水槽だった

また、部屋のあちこちに観葉植物が置かれ
天井で回るファンからの風を受けて
葉を緩やかに震わせていた

「…綺麗」

「ありがとうございます
お客様に楽しんでいただきたくて置いているんですよ
今、お茶をお入れしますね」
柔らかな笑顔で話しかけ立ちあがった

 

 

「人を 探して欲しいんです」
女は前置きなしに呟いた

 


「人探しですね
もちろんお引き受けしますが
ご覧の通り、うちは小さな事務所です
もしも、お急ぎならば
もっと大手の事務所をご紹介出来ますよ」

「いえ…いえ
いいんです

本当は私も見つけたいのか
見つけなくてもいいのかわからないんです」

困ったように女は笑った

「なるほど。
では、軽く事情を聞かせて下さい」

キーはお茶を出しながら
デスクに戻りパソコンを開いた


「…その人は
私の勤めているお店に来ていたお客様なんです

年は20代前半から後半で
男性です」

「続けて下さい」

「プライベートな事は全くわからない人でした
住んでる場所も電話番号も仕事も
知りません」

「お付き合い…と、呼べるものか
私にはわかりませんが
出会って半年以上になりますが
突然…来なくなりました」

「消えた?」

「私は、いつも彼が訪ねてくるのを
待っていました。消えた、という言い方よりも来なくなった、
そういう関係でした。」

「来なくなった、とおっしゃいますが
どれくらい来ていないのですか?」

「三週間です」

「なるほど…
しかし、依頼に来られたあたなには
失礼ですが、まだそこまで心配する
必要はないのでは?」

「…私もこうしている事が
正しいのかどうかわからないんですが」
女は迷いながら
「ただ…胸騒ぎがして…
じっとしていられなかったんです」


「金銭トラブルがあったのですか?」

「いいえ」

「何か心辺りは?」

「…見えないスイッチを押してしまった
のではないかと思っています」

「スイッチね…
面白い言い回しをされますね
彼と出会われたのが…」

「私が勤めているお店です」

「失礼ですが、どういったお店か伺いたいのですが」

「お弁当屋さんです」

「すると、その男性はお客として
来ていてあなたと知り合われたのですね?」

「はい」

「何か彼の事で覚えている事はありませんか?」

「…いつも、夜遅くに買い物に来て…
必ず黒いスーツ姿でした」

「写真はありますか?」

「いえ…」

「なるほど
では、彼のお名前はわかりますか?」

「…はい、ジンギ、、、です
ジンギさんと呼んでいました」

 


ジンギ……

 

 


「…メンチカツ…
メンチカツが好きでした」

 

 

メンチカツが好きなジンギ…

 

 

水槽で泳ぐ魚を見ながらキーは
あまりの情報量の無さに
引き受けるべきかどうか迷っていた