しゃいに兄弟の砂時計 39

七月～落雫

暑苦しい上着を脱ぎ
ワイシャツの袖を捲り上げたオニュと
ジョンヒョンが並んで歩いていた

「ジョンヒョン」

「ヒョンが出て行ってすぐ
テミンに追い立てられて
みんなで後をつけたんだ
ごめん

テミンが尾けながら
話してくれたんだけどさ

あいつ主語が抜けてるから
わかるまでちょっと大変だった」

オニュを見ないでジョンヒョンは
話し続けた

「あいつの当てずっぽうだったけど
ビンゴだったね」

「…取り返せるなら
そうしようと思ったんだ
こんな事になって…
俺のせいだ
ごめんな、ジョンヒョン」

「…あの人、さ
本当に綺麗だったよ
雨の中で」

初めてアヨンに会った時の事を
言っているのだと分かった

「思わず追いかけてた」

一段高くなっている歩道に
ピョンと飛び乗りバランスを取りながら
ジョンヒョンは歩いた

「だけどさ、柔らかくて真っ白って。
この年まで生きててそんな男
いるわけないじゃんな

俺は結構、黒い奴なんだぜ」

足元に集中して綱渡りのように
歩くジョンヒョンを見て
オニュは、その部分は
あの女は言い当てていた、と思っていた

「お前は綺麗だよ」

「はあ？」

「綺麗だ
綺麗だから綺麗な言葉が紡げる」

両手をポケットに入れたオニュが
真っ直ぐジョンヒョンを見ていた

「ダークな所も…みんな綺麗だ」

「何言ってますか？
弟相手に真剣に

俺、口説いてどーすんの」

待ってよ～とテミンと
ミノが追いついてきた

「何やってたんだよ
おっせえよ」

「テミンがあの人がどうするか
見るって聞かないんだもん」

「隠れて見てた」

可愛い笑顔でテミンが言った

「あの人が店を歩くだけで
男どもの視線浴びてたよ

めっちゃ、濃いイケメンに
声かけられて
全力でイソギンチャクオーラ出してたな」

「そいつに幸あれ、だな」

ジョンヒョンとミノが並んで歩き
テミンはオニュにすり寄った

「あの人、欲望に忠実な人だったね！
ヒョン、一回してあげれば
良かったのに！」

オニュはチラリとテミンを見て
ポケットから手を出し
素早くデコピンをくらわせた

「んっのあ！！！」

エビのように跳ねるテミンを
笑いながら見ていると

うわあああああと後ろから
騒ぐ声が聞こえてきた

「逃げてええええ！！
ミノが地雷踏んだーーーー！！」

ジョンヒョンが目を見開きながら
走りその後ろから
ターミネーター走りでミノが
追いかけて来ていた

なんだ？と顔を見合わせる
オニュとテミンに
ジョンヒョンが叫んだ

「ミノが！」

「犬の！」

「落し物、踏んじゃったーーーー！！」

そこまで叫んだ時には
すでに間近に迫っており
オニュとテミンは
ギャ！！と飛び上がり
走り出した

「来るなーーーー！！！」

「待ってえええええ！
置いてかないでええええええ」

テミンがミノにロックオンされ
わめき声が近所に響き渡り
年長組が駆け戻り
テミンの口を塞いだが
そこかしこで犬が
ワン！ワン！と吠え始めた

暗い夜道を笑いながら

自宅を目指してみんなで歩いた
七月の夜だった