しゃいに兄弟の砂時計 61
十一月~初霜
オニュが玄関を開けると
「お帰り~」とジョンヒョンが
出て来た
「テミン、やったな」
「うん」
台所には暖かな湯気が立ち昇っていた
「御飯、作ってくれてるの?」
「ラーメンだよ」
「ありがとな」
「今日は早く帰れたから」
ジョンヒョンはワイシャツの袖を捲り
流しに立って
「もう、出来るから
座ってなよ」
うん、と言いながらオニュは
ジョンヒョンの真横に立ち
鍋を覗きこんだ
「何?」
冷たく聞くジョンヒョンに
「あき らーめんはあきらめん」
「…………」
ジョンヒョンの訝しがる顔に
御構い無しにニコニコするオニュを
横目で眺め
「何?もう一回」
「あきらーめんはあきらめーん」
「……っああ!」
秋ラーメンは諦めんね~
ハイハイハイとジョンヒョンは理解した
「はいはい、面白かったね
さっ食べようぜ」
「ミノ、まだ寝てる?」
「うん、まだ寝かしとこ」
台所の小さなテーブルに
二人は向かい合わせに座り
ズズッと麺を啜った
ヒョン、胡椒…
ん…
しばらく無言でラーメンを食べ続けた後
ポツリとオニュが言葉を漏らした
「おめでとう言ってないんだ」
湯気で曇った眼鏡を外し
ジョンヒョンがオニュを見た
「テミンに?」
「テミン、興奮してたし…
でも…言ってないんだ」
「うん…?」
「なあ、ジョンヒョン
俺 これから何を支えてけばいい?」
顔は笑っていたが
ジョンヒョンの目を見ず
ラーメンを見下ろしているオニュ
飛躍した言葉でも、
全てを語らなくても、
テミンの巣立ちが寂しいのだ、と
ジョンヒョンにはわかった
いつも大きな責任を背負っている事を
感じさせないオニュがぽろりと
見せた弱さだった
「ヒョン、俺たち家族でしょ
5本の道に別れても
根っこはおんなじ
兄弟じゃん
家族じゃん」
「……ん」
「ヒョンは卵!
これがなきゃダメってやつじゃん
ほらっ卵あげるから
さっさと食べな」
うずらの卵をオニュの丼に入れ
ジョンヒョンは俯いてまた
食べ始めた
いつも兄弟で取り合いになった
うずらの卵がオニュの
丼に並んで浮かんでいる
オニュは向いのジョンヒョンに
笑いかけ
勢い良くラーメンを食べ始めた