しゃいに兄弟の砂時計 37

七月～甘露

「…舐める？」

「そう 舐めるの」

アヨンから視線を逸らし
川向こうを見るオニュに
囁き続けた

「柔らかくて…
真っ白

硬そうに見えるけど
とっても、脆い

覚えてる？
ジョンヒョン君の事よ」

煌めくイルミネーションに
浮かび上がるアヨンは
大きな瞳でオニュを見据えた

「このメモ帳は彼の魂よね？
二度とこの言葉にジョンヒョン君は
会えなくなるわよ

彼には痛手でしょうね」

「アヨンさん、こんな事をしても
あなたを好きになる事はない」

「今はね、
でも、抱いたらどうかしら

私を愛するようになるわ
実感させてあげる」

「愛は分かち合うものですよ」

オニュの言葉に胸を押されたように
アヨンがたじろいだ

「分かち合う？
あなた、そんな事言うのね
私を見て…？
簡単な事でしょ？
ねえ、あなたに揺さぶられたいのよ」

囁くアヨンは妖艶で美しかったが
オニュはピクリとも動かなかった

「ジョンヒョンの
メモ帳を返して下さい」

冷静なオニュの声に
アヨンはゆっくりと指を
降ろした

「それしか言えないのなら

……メモ帳を川に
投げ捨てる時が来たようね」

アヨンは目をキラキラさせ
左手にオニュから奪われない
距離にメモ帳を持ち
右手はもう一度、ソースを絡め取り
オニュに突き出した

「オニュ  舐めるのよ」

オニュはジョンヒョンの
ネタ帳から
全く話の通じない美しい女に
視線を移した

ジョンヒョンが膝に頭を埋めていた
姿が脳裏に浮かんだ

唇を湿らし
ゆっくりと口を開き
体を屈めた

アヨンもオニュの唇と同じ動きをし
微かに口を開いていった

オニュのピンク色の舌が見え
指先を飲み込もうとした
その時、オニュに集中していた
アヨンの左手からメモ帳を
奪う男が現れた

ジョンヒョンだった