しゃいに兄弟の砂時計 33

七月～朝顔

「……どうして…」

夏の日差しに照りつけられ
オニュの額から首筋、背中は
汗が噴き出していたが
目の前でジョンヒョンの大切な物を
持っている女にゾワゾワとした
悪寒を感じていた

『いつか大変な目にあうよ！』

キーの声が頭の中で響いた

「ジョンヒョン君、私が大好きみたい
色んな秘密を話してくれるの」

手帳をパラパラとめくりながら
笑った

この女はジョンヒョンの
最も大切な部分を踏みにじり
利用している

「返せ」
湧き上がる怒りを押し込め
静かな声で言った

アヨンは、メモ帳の端を
ピリっと破き指先から
振り落とした

小さな紙切れは風に乗り
あっという間に落ちて行った

手摺に駆け寄り
下を覗き込むオニュに
「大丈夫
余白よ」

「それは、君の物じゃない
返せ」

「ジョンヒョン君、今書いてる作品に
相当賭けているみたいね
とっても手応えを感じてるみたい」

再びピリっと破り
下にヒラヒラと落とした

我慢が出来なくなったオニュは
アヨンの手首を掴もうと
近寄った

「ビリビリに破いて
下に撒き散らすわよ」

白い頬を上気させ
口元を歪め笑うアヨンは
ビリ、ビリ、とジョンヒョンの
言葉に裂け目を入れ始めた

「何がしたいんだ」

「オニュ、今日の夜
一緒に過ごしましょう
ちゃんとスーツ着てきてね

デートよ」

「………」

「その時、返してあげる」

力ずくで奪う事も考えたが
激情と理性の間を
軽々と往き来する女に
オニュは不穏な気配を感じ
その条件を飲んだ

不意に女が近寄り
オニュの額の汗を拭こうと手を伸ばした

咄嗟に身を引き
女をじっと見つめた

「オニュ……大好きだよ」

黄色いスカートをはためかせ
女が笑った