しゃいに兄弟の砂時計 36

七月～甘露

アヨンが指定した店は
川沿いに夏季限定でオープンしている
バルとビヤガーデンが
掛け合わさった店だった

食器の触れ合う音や
楽しげな笑い声
肉の焼かれる香ばしい匂いが
混じり合い夜空に猥雑な空気を
撒き散らしていた

案内された座席は
人混みから離れたテーブル席で
程よく静かであった

「アヨンさん、
最初に返してもらえませんか？
本当に大事な物なんです」

「オニュ、今日は
すごく素敵

とっても似合ってる」

テーブルの下で両手を握りしめ
オニュは冷静になろうとした

「オニュ、乾杯しましょう」

背中が大胆に開いた
黄色いタイトなワンピースを着た
アヨンがオニュに体を傾け
グラスを寄せた時
柔らかそうな胸の谷間が目に入った

『黄色いイソギンチャク』

テミンの声が蘇り
オニュは口元を引き締め
グラスを合わせた

アヨンが次々に喋り
オニュは無口に聞いていたが
限界だった

「アヨンさん、ジョンヒョンの
メモ帳を返して下さい

許可を得ないで持ち出してますよね？
本当に大事な物なんです
返してもらえませんか」

アヨンは唇を指でつつきながら
答えた

「あなたをくれるなら
返してあげる」

「アヨンさん」

「あなたが欲しいの」

バッグからジョンヒョンのネタ帳を
取り出し膝の上に置いた

テーブルにあったスペアリブの
濃厚なソースを細い指先に
絡め取りオニュの方へ差し出した

「………」

意味がわからず
見つめるオニュに唇を歪め
囁いた

「舐めて…」