大好きの魔法
はあっ
はあっ
吐く息は白い煙となり
顔の周りでぶわりと渦を巻いて
左右へ 、 自分の後ろへと流れてゆく
いくつもの白い煙を置き去りに
しながらチャンミンは
ひたすら足を前に動かす
雪を踏みしめる音
木々から落ちる小さな雪片
歩く度に擦れる服の音
湿った森の匂い
チャンミンは一人
道を歩む
最後の口づけ
最後の抱擁
ユノの背中
歩きだしたと思った途端
戻ってきた僕の半身
冷たい空気は肺を冷やし
流れる涙は暖かく首元を濡らしてゆく
ずっと
一緒に生きていける
そう考えてた
だらしない所
ずるい所
無神経な所
『あなたね、俺の事、なんて奴だって
思ってるかもしれませんけど
俺もあなたの事、なんて奴だって
思ってますよ』
あの時のユノの顔
忘れない
いつものように親愛のハグをされている、
そう思っていたあなたが
いつの間にか床に押し倒された時の
混乱した顔
あの時、聞こえてきた近所にいる
犬の鳴き声
風に揺らめくカーテン
あなた、瞼を、閉じましたよね
忘れない
『ユノ、行きな』
『･･･チャンミン』
『もう、悩まなくていい
僕は大丈夫ですから』
『･･･僕は大丈夫？』
『そう、大丈夫です』
あの時のあなたの怒り
綺麗だったな、、、
あんなあなた 見れるのは 僕だけ
僕だけなんだ
『･･･俺は ずっとユノの中にいる
もう、誰にも俺をあげない
ユノが死ぬ時 俺も死ぬ』
『･･･馬鹿か』
『真実だから』
泣きすぎて疲れた頭で
破壊された部屋を二人で片付けた
忘れない
『お前･･･次に会えるのは
来世だぞ？』
『いいじゃないですか。』
『･･･あんまり遠い所にいるなよ』
『さあ』
『女はだめだ。男で生まれてこい』
『そんな、事 知りません』
『チャンミン 約束だ』
笑おうとして歪んだ瞳から
透明な雫があとから、あとから
『もう、泣かないで。
あなたが泣くと俺も泣くでしょ』
忘れない
あなたが閉じた扉
遠ざかる足音
苦しい
胸がざわめく
チャンミンは真っ白な大地を見下ろす
どこまでも白い大地の果ては丸く淵を描き
透明な光は雪に反射し
辺り一面に小さな煌めきを撒いていた
まっしろな大地に体を投げ出す
薄青い空を見上げる
なんて
わかりやすいんだ
白と青の二つ
ありがとう
ユノ
愛だろ
これって愛だよな
しかも、すごいやつ
俺の吐く息
白い煙
これも愛のカタチかも
チャンミンは そんな考えを
一人笑う
愛のカタチ
見せて あげたかったなあ
俺はあの人を手放してはいない
あの人は 俺だけのもの
俺が 消えない限り
あの人は
俺だけの ユノなんだ
魔法をかけたの、ユノ、気がつくかな
最後のキス
あの人は 俺だけの。
だから、生きて いける
そんな魔法
大好きの魔法
end
