eggonewのブログ

SHINeeオニュ的な

天泣

 

 

 

 

 

 


私は どこにも 行かない

あなた、  だけの  そばに います

あなた 、 だけを  愛して います

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ハニが初めて夫となる男に会ったのは
住宅展示場だった

 

自宅を新築する事になり
両親がハニと弟のイルソンを連れて
設計士との打ち合わせに同席させた


自分の希望を伝えると
いつ終わるか分からない打ち合わせから
ハニとイルソンは抜け出し
あちらこちらと
展示場内を見て回った


空間が広く清潔な室内は
まるで生活感がなく
二人は自分の好きな所を見て歩き
いつの間にか、ハニは一人で
歩いていた


やがてこじんまりとした
坪庭をガラス越しに臨む
エリアに来た

窓から入る自然光だけが 
灯りとなっている部屋には
ソファがありハニは腰を沈めた

 


真っ青な空から陽光が降り注ぎ
繊細な葉先が風に吹かれ
その身を揺らしていた


ハニはゆっくり立ち上がり
窓に近寄った

空を見上げるハニの顔に、
葉陰が作り出す
まだらな影が投影される

 

ハニはガラス窓に指先を伸ばし
空を見上げた

 

 

ポツリ、と水滴がガラスに当たり
勢いを増した水滴は
パタパタと樹々を揺らし
ガラス窓に水滴の道を落としてゆく

 

 

雨...

 

 


雨を落とすような雲はないのに
窓に、地面にパタパタと大粒の水滴が
振り落ちる

 

揺れる葉陰や窓ガラスを伝う水滴が
ゆらゆらと影を落とし
まるで水中にいるようだとハニは
思った

 

 

 


「天泣」

 

 

 

 

突然、声が聞こえ
驚いたハニは
体をこわばらせて声の主を見た

 

 

黒髪で前髪を自然に左右に流し
体にぴたりと馴染む黒のスーツを
着ている男が
ハニを真っ直ぐ
見ていた

 

色白のきめ細かい美しい肌を
持つ男だった

 

 

 


「天泣ですね」

 

 

 

そう言って
目元の力を緩め男が微笑むと
唇の口角がきゅ、と左右に上がり
親しみやすく社交的な男性に
印象が様変わりした

 

 

「……てんきゅう、ですか?」

 

「そう
狐の嫁入りとも言います」

 

「ああ…」

 

「ほら、もう止んだ」 

 

男がハニの横に立ち
空を見上げた時
初めて嗅ぐ香水が微かに漂い
ハニは、好きな香りだと思った

 

その時自分を呼ぶ声が聞こえた
母親が遠くから ハニ!と 
呼びかけている


ハニは男を見上げ
立ち去る合図に軽く会釈した

 

降り注ぐ陽光を浴びて
優しく笑う男の眉に
奇妙な切れ目がある事に気が付き
ハニは眉から男の瞳へと
視線を巡らせた

 

途端、身動きが取れなくなるような
息苦しさを覚え
男の瞳を凝視したまま立ち尽くす

 

ハニ!

 


母親の声が
ハニの金縛りを解いた


後ずさりしながら
ハニは会釈をし 
くるりと背を向け
その場を後にした