eggonewのブログ

SHINeeオニュ的な

しゃいに兄弟の砂時計 8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二月~残雪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「ただいま」


「ただいま…」


「おーー!
お帰り、どうだった?
勤労体験、三日目は?」


「どーもこーもないよ
あれじゃ、どこでも働けないね
心配した通り」


余り物の野菜をもらってきたキーは
手早く、下ごしらえに入りながら答えた

 


「だって!
俺、キーヒョンと一緒の八百屋なんて
思わなかったんだから!」


テミンは早口で、まくし立てた

 


「だから?だから何?」


「だから?
だから、やだったの!
八百屋なんか!」


「お前はそんな事で
気分を左右させるのか
働ける場所があるってだけで
幸せな事なんだぞ


仕事してれば、色んな事がある
初めてその経験をするお前を
サポートしてくれる人間が
周りにたくさんいる環境なんだ


感謝されこそすれ、不機嫌になられる
筋合いなんて、これっぽっちもないね!!」

 

 

 


ダンッと包丁を木のまな板に
突き立てた

 

 

 

 


「おい、おい
キー、どうしたんだよ」

 

 

 


突然、沸騰しだしたキーに
ジョンヒョンが戸惑った

 

 

 


「こいつは、周りに
どんだけ守られてるか
全くわかってない!

 

 


客に頭を下げない
声をかけない
笑わない

 

 


あの八百屋はな、地域密着型の
店舗なんだ


大型スーパーが幅を利かせてる今
生き残っていられるのは
店と客の繋がり、信頼関係
商品にかけるプライドなんだ!

 


長年かけて、培った信頼関係が
崩れるのは何がきっかけになるかは
わからない
だから真摯に真面目に
一日一日を商売されてるんじゃないか

 


遊びに行ってんじゃないんだ!
金を貰うのに見合う価値の働きを
しろ!!」

 

 

 


流れるように捲したてるキーを
テミンはじっと見つめていた

 


「…キー
テミンは、初めてのバイトなんだから…」

 

 


「わかってる、だから、俺も我慢したし
色々、教えた


だけど、こいつは俺が
大切にしている場所を侮辱した


『八百屋なんか』
そう言った」

 

 

 

 

 


「キー」

 

 

 

 


「俺、もう、風呂入って寝る
メシ、適当に食って」


テミンの顔を見ないまま
さっと通り過ぎるキーを
追いかけようとテミンは腕を上げたが
その場に立ち尽くした

 

 

 

 

 

 


「テミン」


「うん」


「大丈夫だ、しっかり謝れば
キーは許す


今までもそうだったろ?
ん?」


「俺…子供すぎた」


「誰でも最初はそうだ
お前は幸せだぞ、テミン
心の底からぶつかってくれる相手がいる


お前も同じ気持ちで相手に返せ


必ず通じる
いいな」


「うん」


「さて、メシ、どうしようかな
オニュヒョンは夜勤だから
朝まで帰らないし、
ミノはとっくに寝てる


海苔巻きでも作っとくか
みんな、好きな時に食えばいいしな」

 


不気味に突き立つ包丁をそのままに
ジョンヒョンとテミンは
ガチャガチャと台所を引っ掻き回した

 


深夜、空腹に負けて
台所に来たキーは
海苔巻きの概念からかなり離れた
独創的な食べ物を目にした


丸ごとの海苔二枚の間に薄く米が
敷き詰められ挟んだだけの物だった

 

 

 

 


「…なぁぁに?これ…」

 

 

 

 


サランラップで包まれた皿に
キーヒョンへと書いたメモが
載っていた

 

 


メモを読んだキーは

 

 

 

 

 


「バカだな、ほんとに…」

 

 

 

 

 


サランラップを剥がし
真四角な黒い物体を手に取った


ビロンと力なく垂れ下がる物体を
訝しげに眺め
カプリ、と口にした

 

 

 

 


「海苔の味しか、しねえよ」


「一反木綿の真っ黒バージョンか」

 

 

 

 


キーは、一人、まな板に突き立つ包丁を
背に独り言を呟きながら
もぐもぐと食べ進めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


メモには

 


『ヒョン、ごめんなさい』

 


そう、書かれていた