天泣 21
すっきりと整理された
キーらしい部屋だった
ほんのりと香るキーの香水を感じながら
誰もいない部屋を足を忍ばせて
デスクに近寄った
椅子を引き出し
腰をかける
パソコンを立ち上げる間に
引き出しを開けてみる
所定の位置が決まっていると
思われる文房具等を
なるべく動かさないよう
ゆっくり丁寧に見ていき
下段の引き出しで
目当ての物を見つけた
父親の社名の入ったラベルが
背表紙に貼ってある
分厚いファイルを慎重に
取り上げる
ブンっと微かな音が聞こえ
ハニはパソコンを立ち上げていた事を思い出した
ロック画面のパスワードを
何度か適当に打つ
自分の名前と誕生日の組合せで
開いた時には驚きでぼんやりしてしまった
こんな簡単なパスワードしか
かけないなんて...
キーさんらしくもない...
ハニは、いない筈のキーの視線を感じ
激しく胸を打たせながら
メール画面を開いた
フォルダに自分の名前を見つけ
眉を寄せながら
クリックした
普段、キーとパソコンのアドレスで
やり取りをする事は無かった
画面を見てハニは息をするのを
忘れた
メールは母や弟がキーに金の工面を
頼む物ばかりだった
震える指先で日付を辿り
古い物から開いてゆく
どうやら、一度、キーから借りた金に
味をしめ
まるで家族の金庫のように
キーから金を借りているようだった
ほとんどが母からで
弟はポツリポツリと無心している
バクバクと鳴る心臓を抑え
ハニは思い起こしていた
父親の会社が厳しくなり
ハニが働き始めても
母は変わらずお洒落を楽しみ
生活水準もさして変えず暮らしていた事を
あの暮らしはキーの援助によって
成り立っていたのか
キーに守られ家族は暮らしていたのか
膝の上のファイルを開く
株主名簿のコピーが
挟まれており
キーの株保有率は三分の二を超えていた
「そんな...」
ハニは顔を覆った
家族が借りた金は莫大な金額の筈だった
なんで...
どうして?
ハニは纏まらない思考を持て余し
キーの部屋を見回した